第二十三回
福岡市中心部から車で約1時間半。
広がるのは緑豊かな山々と石積みの棚田。
耳を澄ますと川のせせらぎや葉のこすれる音が聞こえる。
自然豊かなだけでなく、伝統工芸品も魅力的な東峰村で心解き放たれる癒やし旅を始めよう。
取材・文/淺原麻希 撮影/目野つぐみ
福岡県中央部の東端に位置し、大分県日田市に隣接する東峰村。平成17年、小石原村と宝珠山村が合併した後も、村制を敷いた数少ない自治体だ。静かな山間にある東峰村は、「平成の名水百選」認定の岩屋湧水や「日本棚田百選」に選ばれた棚田など、自然の産物も多い。また、小石原焼や髙取焼といった焼き物のまちとしても知られ、村のあちこちにある窯元を訪ね、〝窯元巡り〞をする人の姿もよく見かける。そんな東峰村が平成29年に九州北部豪雨の被害を受けたのは、まだ記憶に新しい。現在も至る所で道路の工事が進められているが、ここ数年で新しい施設や店がオープンし、徐々に活気を取り戻してきた。一歩ずつ前進する東峰村を訪ね、災害後も変わらず残る自然を感じながらじっくり満喫したい。
東峰村の器でいただく美味しいひととき。
昨年、旧小石原小学校がキッチンスタジオや研修室、ホテルなどを備える複合施設「アクアクレタ小石原」へとリニューアル。給食室だった場所はイタリアンレストラン『ふぇありお』に生まれ変わった。シェフを務めるのは、東峰村の地域おこし協力隊で活動した後、食事処「いちまいのさら」を営んでいた津田 壮史さん。約3年前、同誌で「いちまいのさら」を取材した際に語ってくれた「いつかオーベルジュをしたい」という夢が、『ふぇありお』で叶ったのだ。昼は「シェフのお任せコース」のみ。食材は以前と変わらず地のものが中心で、地元農家が手がけた食材や、自身で育てた野菜も盛り込まれている。小石原焼・髙取焼の器で美しく盛り付けられた料理は、素材本来の旨みや力強さを感じられるものばかり。新玉ねぎの葉やクラフトビールを使ったソースなども独創性があって面白い。一度食べると、深く記憶に残る津田さんの料理。東峰村を訪れる理由にも十分になりそうだ。
この村で生まれたスイーツを自宅で味わう喜び。
3年前、地元に戻ってきた森山生子さんが、4月10日棚田親水公園に菓子工房をオープンさせた。看板メニューのバウムクーヘンには、東峰村竹地区棚田景観保全の一環で植えられた小麦や、微細製粉した棚田米を使用。低温でじっくり焼き上げているため、水がいらないほどしっとりしている。卵バウム(1300円) のほか、黒豆きな粉(1300円)もあり。
ひっそり佇む古民家で、大切な人と贅沢なひとときを。
築132年の古民家を改装した、1日1組限定のヴィラ。窓の向こうには、心癒やされる長閑な風景が広がっており開放感抜群だ。中は伝統の「和」と現代の「洋」を組み合わせたクラシックモダンな雰囲気。小石原焼の器を備えるキッチンや掘りごたつのある和室、天然石とひのきの岩風呂など、随所にこだわりが光る。食事は、食材を持ち込み自炊するほか、地元食材をふんだんに盛り込んだ料理のコースも用意。夜は満天の星を見ながら庭にある「月見台」で寛ごう。